この記事の要点
- 録音の可否そのものより、何のために録音し、誰が聞き、いつ消すのかを決めておくことが重要。
- 伝え方は、告知の一文をあらかじめ用意しておく。その場で考えると言い回しがぶれる。
- 「念のため残す」を続けると、どこに何年ぶんあるか誰も把握していない状態になる。
通話を録音するかどうかは、応対品質の向上や、言った言わないを避けるという観点から検討されます。ここでは法律の解説ではなく、実務として何を決めておくべきかを整理します。制度の適用については、必ず専門家にご確認ください。
そもそも、なぜ録音するのか?
目的を先に決めておかないと、その後のすべての判断がぶれます。応対品質を振り返るためなのか、聞き取りの誤りを後から確かめるためなのか、苦情に備えるためなのか。目的によって、誰が聞くべきか、どれだけ残すべきかが変わってきます。
葬儀の電話で特に価値があるのは、聞き取りの誤りを後から確かめられる点です。お名前や連絡先を聞き違えていた場合、文字の記録だけでは正しさを検証できません。音声が残っていれば、疑わしいときに立ち返れます。
逆に、目的が曖昧なまま「とりあえず全部録っておく」を続けると、保管量だけが増え、漏えいしたときの影響も大きくなります。目的が決まっていない録音は、資産ではなく負債に近づきます。
ご遺族にはどう伝えるのか?
あらかじめ告知の一文を用意しておくことをお勧めします。その場で考えると、担当者によって言い回しが変わり、伝わり方も変わります。文言が決まっていれば、誰が出ても同じ説明ができます。
伝える内容は、録音していることと何のためかの2点で足ります。長い説明は、深夜のご遺族には届きません。「応対の品質向上のため、通話を録音しております」といった簡潔な形が現実的です。
AIが応対する場合は、AIであることも同時に伝える必要があります。伏せたまま応対して後から分かると、録音の件も含めて不信につながります。最初にまとめてお伝えするほうが誠実です。
外部のサービスに音声を渡す場合は、何が変わるのか?
渡す先と、渡した先で何が行われるかを把握しておく必要があります。音声認識やAIの処理を外部のサービスで行う場合、その通話の音声は自社の外に出ます。
とくに確認すべきは、渡した音声が保存されるのか、学習に使われるのか、どこの国のサーバで処理されるのかの3点です。同じ「外部サービスを使う」でも、この3つの答えによって説明すべき内容が変わります。
この点は、ご遺族への告知にも関わります。処理の実態と告知の内容がずれていると、告知した意味がありません。契約前に確認し、告知文に反映してください。
誰が聞けるようにすべきか?
必要な人だけです。通話には、ご家族の関係、経済的な事情、病歴といった極めて個人的な内容が含まれることがあります。社内であっても、全員が聞ける状態にしておく理由はありません。
実務としては、聞ける人を役割で限定し、誰がいつ聞いたかが分かるようにしておくのが安全です。権限を絞るだけでなく、記録が残る形にしておくと、内部の運用としても引き締まります。
どのくらいの期間、保管すべきか?
目的から逆算します。聞き取りの確認が目的であれば、施行が終わるまでで足ります。苦情への備えであれば、もう少し長く必要かもしれません。いずれにせよ、期間を決めて、過ぎたら消える形にしておくことが重要です。
「念のため残す」を続けると、数年後には、どこに何年ぶんの音声があるのかを誰も把握していない状態になります。この状態がいちばん危険で、漏えいしたときに影響範囲すら特定できません。
期間を決めるのが難しければ、短めから始めてください。足りないと分かってから延ばすほうが、長すぎたと気付いてから消すよりずっと簡単です。
ご遺族から削除を求められたら、どうするのか?
応じる手順をあらかじめ決めておきます。求められてから考えると、対応にばらつきが出ますし、時間もかかります。窓口、確認事項、削除の実施者、完了の連絡方法までを流れとして書いておくことをお勧めします。
実務で注意すべきは、音声を消しても、そこから作られた記録が残っていることです。文字起こし、要約、引継ぎメモ、ケースの記録。元を消しても派生したものが残っていれば、消したことになりません。
どこに何が派生しているかを把握しておかないと、この確認はできません。仕組みを導入する際に、必ず確かめておくべき点です。
録音しないという選択はあるのか?
あります。録音しなければ、保管も削除も漏えいも考えずに済みます。応対の振り返りができない、聞き取りの誤りを検証できないという不便はありますが、それを許容する判断もあり得ます。
大事なのは、録音するかしないかを決めていない状態を作らないことです。仕組みによっては既定で録音されていることがあり、知らないうちに音声が溜まっている、という事態が起こり得ます。
結局、何を決めておけばよいのか?
5つです。目的、告知の文言、聞ける人、保管期間、削除の手順。この5つを紙に書いておけば、担当者が変わっても同じ運用ができます。
| 決めること | 決めていないと起きること |
|---|---|
| 目的 | 他の判断がすべてぶれる |
| 告知の文言 | 担当者によって説明が変わる |
| 聞ける人 | 必要のない人まで聞ける状態になる |
| 保管期間 | 把握できない量が溜まる |
| 削除の手順 | 求められたときに対応がばらつく |
いま録音していない会社は、何から始めるべきか?
まず、いま外部のサービスを使っている部分がないかを確認してください。電話代行、クラウドのPBX、留守番電話の文字起こし。意図せず録音や外部送信が行われていないかを把握することが先です。
そのうえで、必要だと判断したら、上の5つを決めてから始める。順番を逆にすると、後から整理するのが大変になります。
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