AI受付の契約前に、SLAで何を確認すべきか

この記事の要点

  • 稼働率の数字だけを見ない。障害が起きたときに何が起こるかまで確認する。
  • 通知の失敗、解約条件、データの扱いは、契約前にしか交渉できない。
  • 口頭の説明ではなく、契約書の文言そのものを確認する。

AI電話受付の導入を検討する際、複数の事業者から見積もりを取ることになります。機能や価格の比較に目が行きがちですが、実際に運用が始まってから効いてくるのは、契約書のなかでも目立たない条項です。ここでは、契約前に確認しておくべき項目を整理します。

SLAとは、そもそも何を約束するものか?

SLA(サービスレベルアグリーメント)は、提供されるサービスがどの水準で動くかを、事業者が利用者に約束する文書です。多くの場合「稼働率99.9%」のような数字が示されますが、この数字だけを見て安心してよいわけではありません。

重要なのは、その数字が何を測っているかです。サーバが起動していることを稼働と数えているのか、実際に電話がつながることを稼働と数えているのか。定義によって、同じ99.9%でも意味がまったく違います。

葬儀の電話は、深夜の限られた時間に集中して発生します。日中の稼働率がどれだけ高くても、深夜の数分間だけ止まっていれば、その会社にとっては致命的です。全体の平均ではなく、夜間帯の実績を尋ねてください。

「稼働率99.9%」は、年間でどれくらいの停止を許すのか?

感覚的に高い数字に見えますが、実際に計算してみると印象が変わります。99.9%は、年間で約8.76時間の停止を許容する水準です。これは、月に平均40分程度の停止があり得るという意味です。

この停止が日中の閑散時間に起きるのか、深夜のご逝去の連絡が集中する時間に起きるのかは、事業者にも予測できません。数字の高さより、止まったときにどう気付き、どう対応するかのほうが重要です。次の項目で扱います。

止まったときの通知は、誰にどう届くのか?

SLAの数字よりも実務上重要なのが、この項目です。障害が発生したとき、事業者からこちらへ連絡が来る仕組みになっているか。来るとして、どのくらいの時間で来るか。

連絡がメール1通だけで、確認するまで気付かないという運用では、実質的に意味がありません。電話やチャットなど、即座に気付ける手段で通知されるかを確認してください。

あわせて、こちら側で状態を確認できる手段があるかも尋ねます。ステータスページのようなものが用意されていれば、事業者からの連絡を待たずに自分で確認できます。

障害が起きた場合、補償はどうなるのか?

多くのSLAには、稼働率を下回った場合の返金や利用料の減額が定められています。ただし、この補償は失った電話の価値を埋め合わせるものではありません。1件のご逝去の連絡を取りこぼした損失は、月額利用料の減額では到底つり合いません。

補償の条件を確認する目的は、金額の多寡ではなく、事業者がどれだけ稼働に責任を持っているかを測ることです。補償の規定が曖昧、あるいは存在しない場合、その事業者が稼働をどれだけ重視しているかの手がかりになります。

受電できなかった場合の受け皿は、契約に含まれているか?

仕組みが止まったとき、電話がどこへ行くのかを確認してください。多くの場合、契約前の説明では「基本的に止まりません」という前提で話が進みますが、止まった前提の設計がなければ、実際に止まったときに困ります。

担当者の携帯へ自動的に転送する経路、あるいは留守番電話へ切り替わる経路。どちらでもよいので、仕組みが機能しなかった場合に電話が消えない設計になっているかを確認します。この設計がオプション扱いで追加費用がかかる場合、標準機能として含められないか交渉する価値があります。

解約の条件は、どうなっているのか?

契約前に最も確認を怠りやすい項目です。最低利用期間はどのくらいか、解約の予告はいつまでに必要か、解約時に違約金は発生するか。

試験的に始めたい場合、これらの条件が厳しいと、試すこと自体のハードルが上がります。「合わなければやめられる」契約かどうかを、価格や機能と同じ重みで確認してください。

あわせて、解約後にデータがどうなるかも確認します。次の項目で詳しく扱います。

解約後、データはどう扱われるのか?

通話の記録、伺った内容、ご連絡先。これらは事業を続けるうえでの資産であると同時に、ご遺族の個人情報でもあります。解約した場合、これらのデータがどう扱われるかを確認してください。

選択肢としては、返却される、こちらで消去できる、事業者側で一定期間後に自動的に消去される、といった形が考えられます。「分からない」「決まっていない」という回答が返ってきた場合は、そのまま契約すべきではありません。後から個人情報の扱いについて説明を求められたとき、答えられなくなります。

費用の内訳は、どこまで示されているか?

初期費用と月額費用に加えて、変更にかかる費用を確認してください。運用しながら、伺う項目を増やしたい、言い回しを直したいという要望は必ず出てきます。そのたびに追加費用が発生する契約だと、改善が進みません。

また、通話量に応じた従量課金がある場合、想定より着信が多かった月にどうなるかも確認します。上限を超えた場合に自動的に止まる設計だと、繁忙期に受電できなくなるおそれがあります。

サポートの窓口は、どこまで対応してくれるのか?

平日日中のみの対応なのか、深夜の障害にも対応してもらえるのか。ここは事業者によって大きく差があります。葬儀という業務の性質上、平日日中だけのサポートでは実務に合いません。

深夜に問題が起きた場合、誰に連絡すればよいのか、どのくらいで応答があるのかを、契約前に具体的に確認してください。「サポート対応」という言葉だけで判断せず、実際の対応時間帯と応答時間を数字で聞きます。

第三者の監査や認証は受けているか?

個人情報を扱う事業者として、外部の第三者機関による評価を受けているかどうかも判断材料になります。すべての事業者がこうした認証を持っているわけではありませんが、持っている場合は、それだけ体制への投資をしている証拠になります。

認証の有無だけで良し悪しを決めるべきではありませんが、他の項目と合わせて総合的に判断する材料の一つにしてください。

複数の事業者を比較するとき、何を揃えればよいのか?

ここまで挙げた項目を、比較表として整理することをお勧めします。稼働率の定義、通知の速さ、補償の内容、解約条件、データの扱い、サポートの時間帯。同じ項目で並べて初めて、価格の差の意味が分かります。

安い契約が、これらの項目で劣っている場合、価格差は正当な理由があることになります。逆に、高い契約が特に優れた点を示せない場合、その差額は説明を求めるべきです。

契約書は、誰が読むべきか?

営業担当者の口頭の説明だけで判断せず、契約書の文言そのものを確認してください。口頭で聞いた内容と、契約書に書かれている内容が食い違っていることは珍しくありません。

専門的な用語が並んでいて読みにくい場合、疑問点を箇条書きにして事業者に質問し、回答を書面やメールで残してもらうことをお勧めします。後から「言った・言わない」にならないための備えです。

まず何から始めればよいのか?

今回挙げた項目を、チェックリストとして手元に用意してください。稼働の定義、通知の速さ、補償、受け皿の有無、解約条件、データの扱い、費用の内訳、サポート体制。この8項目を、検討しているすべての事業者に同じ形で確認します。

すべてに満点で答えられる事業者は多くありません。どの項目を重視し、どの項目なら妥協できるかを、自社の状況に照らして決めておくことが、比較検討をスムーズに進める鍵になります。

デモや試用期間中に、SLAは検証できるのか?

本格導入の前に、試用期間を設けている事業者は多くあります。この期間を使って、SLAに関わる項目を実際に確かめることをお勧めします。契約書の文言だけでは分からない実態が見えることがあります。

たとえば、サポート窓口に実際に問い合わせてみて、応答までにどれくらい時間がかかるかを体感してみる。ステータスページがあると説明されていれば、実際にアクセスして、更新頻度や情報の分かりやすさを確認する。説明された内容と、実際に触れて分かることの間には、しばしば差があります。

試用期間中に障害が発生することは稀ですが、模擬的な問い合わせや、意図的に想定外の操作をしてみることで、事業者の対応の速さや丁寧さを推し量ることはできます。

複数の担当者から異なる説明を受けたら、どうするか?

営業担当者と、契約後のサポート担当者とで、SLAに関する説明が食い違うことがあります。とくに稼働率の定義や補償の範囲について、口頭での説明にぶれがある場合は注意が必要です。

このような食い違いに気付いたら、どちらが正しいかを契約書の文言で確認してください。口頭の説明はあくまで参考情報であり、実際に効力を持つのは書面に記載された内容です。疑問点は、契約前に書面やメールで確認を取り、その回答を保存しておくことをお勧めします。

SLAの内容は、契約後に変更されることがあるのか?

あり得ます。事業者側の都合で、利用規約やSLAの内容が改定されることは珍しくありません。契約書のなかに、こうした変更がどのように通知されるかという条項があるかを確認してください。

通知が事前に、十分な猶予を持って行われる契約であれば、変更内容を確認したうえで、継続するかどうかを判断する余地があります。通知が事後的、あるいは通知自体が義務付けられていない契約は、注意が必要です。知らないうちに条件が悪化しているという事態を避けるためです。

小規模な事業者と契約する場合、大手と何が違うのか?

小規模な事業者は、柔軟な対応や、直接のコミュニケーションのしやすさという利点がある一方で、SLAに関する体制が大手ほど整っていないことがあります。バックアップの体制、障害対応の人員、補償の原資。これらは事業者の規模によって差が出やすい部分です。

だからといって、小規模な事業者を避けるべきというわけではありません。規模にかかわらず、今回挙げた項目を同じ基準で確認することが重要です。小規模だからこそ、担当者に直接、具体的な事例を交えて質問しやすいという利点も活用してください。

契約後も、SLAの内容は定期的に見直すべきか?

見直す価値があります。導入から時間が経つと、当初は許容できた条件が、事業の拡大や変化によって見合わなくなることがあります。たとえば、拠点が増えた、着信件数が想定より多くなった、といった変化です。

年に一度程度、契約内容とSLAを見直す機会を設けることをお勧めします。状況が変わったのに契約内容が当初のままという状態は、双方にとって望ましくありません。事業者との関係を長く続けるためにも、定期的な確認は有効です。

SLAの説明を、複数の営業担当者から並行して受けるべきか?

複数の事業者と同時に商談を進める場合、それぞれの営業担当者から説明を受けることになります。この過程で、SLAに関する説明の丁寧さや具体性そのものが、事業者を見極める材料になります。

質問に対して即座に契約書の該当箇所を示せる担当者と、曖昧な回答に終始する担当者とでは、その事業者全体の体制への信頼度が変わります。SLAの説明ぶりは、事業者の透明性を測る簡易的な指標として使えるという視点を持っておくと、比較検討がしやすくなります。

契約書の専門用語が分からない場合、どうすればよいか?

SLAや契約書には、法律や技術の専門用語が含まれることが少なくありません。理解できないまま署名するのではなく、分からない用語はそのつど事業者に説明を求めてください。

説明を求めても曖昧にしか答えられない場合、それはその事業者自身が契約内容を十分に理解して説明する体制を持っていない可能性を示します。専門家に相談する余裕がない場合でも、分からない言葉を放置せず、必ず質問するという姿勢を徹底してください。理解しないまま合意したことは、後から覆すのが困難です。

複数年契約は、条件面で有利になるのか?

長期契約を結ぶことで、月額費用が割安になる提案を受けることがあります。しかし、複数年の契約は、途中で事業者や仕組みへの不満が生じた場合に、身動きが取りにくくなるという裏返しの側面も持ちます。

とくに導入して間もない時期は、実際の運用で見えてくる不都合が多く出るものです。まずは短い契約期間で始め、問題なく運用できることを確認してから、長期契約への切り替えを検討するという順序のほうが、リスクを抑えられます。割引率の魅力だけで長期契約を先に決めてしまうと、後から後悔する可能性があります。

SLAに関する交渉は、どこまで可能なのか?

提示された条件がそのまま最終条件とは限りません。とくに、一定規模以上の利用を見込んでいる場合や、複数の拠点での導入を検討している場合は、通知の速さや補償の内容について、個別の交渉に応じてもらえることがあります。

交渉を持ちかける際は、何を重視しているかを明確に伝えることが重要です。「深夜の障害対応をより手厚くしてほしい」といった具体的な要望であれば、事業者側も検討しやすくなります。最初から諦めず、まずは相談してみる価値があります。

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