通話の記録が消えたら、どうなるのか ── バックアップとBCPの考え方

この記事の要点

  • 記録が消えると、ご遺族との関係も、施行の証跡も失われる。復元できない前提で備える。
  • バックアップは取っているかだけでなく、実際に復元できるかまで確認する。
  • 事業者任せにせず、自社でも最低限の控えを持つ選択肢を検討する。

電話応対の仕組みを導入すると、通話の記録やご遺族とのやり取りが、その仕組みの中にデータとして蓄積されます。このデータが失われたらどうなるか、考えたことはあるでしょうか。備えの考え方を整理します。

記録が消えると、何を失うのか?

単なる履歴以上のものを失います。進行中のご依頼の詳細、まだ対応が終わっていないご遺族の連絡先、過去の施行の記録。これらは復元できなければ、二度と取り戻せません。

とくに深刻なのは、進行中の案件です。お迎えの手配や、ご希望の内容を伺っている最中にデータが失われると、ご遺族に同じ内容を再度伺うことになり、大きな不信を招きます。

データが失われる原因は、何が考えられるか?

いくつかの類型があります。事業者側のシステム障害、災害による物理的な被害、誤操作による削除、サイバー攻撃。原因によって、備え方も変わります。

原因備えの方向
システム障害事業者のバックアップ体制の確認
災害地理的に離れた場所への複製
誤操作削除の取り消しや復元機能の有無
サイバー攻撃アクセス制御とバックアップの隔離

1つの対策だけですべてに備えることはできません。複数の原因を想定し、それぞれに対する備えを重ねる必要があります。

「バックアップを取っています」は、何を意味するのか?

事業者にこの質問をすると、多くの場合「取っています」という回答が返ってきます。しかし、この回答だけでは安心できません。バックアップを取っていることと、実際に復元できることは別です。

確認すべきは、バックアップの頻度、保管場所、そして復元にかかる時間です。1日1回しか取っていない場合、直近の変更は失われます。復元に数日かかる場合、その間の業務は止まります。

復元できることを、どう確認すればよいのか?

理想的には、実際に復元を試したことがあるかを事業者に尋ねてください。バックアップを取るだけで、一度も復元を試していない事業者は、いざというときに復元できない可能性があります。

「バックアップから復元した実績はありますか」という質問は、事業者の体制を測る良い指標になります。実績がある、あるいは定期的に復元テストを行っていると答えられる事業者は、それだけ備えへの投資をしています。

災害への備えは、どこまで必要か?

地震や水害などで、事業者のデータセンターそのものが被害を受ける可能性は低いものの、ゼロではありません。とくに、データが単一の場所にしか保管されていない場合、その場所が被災するとすべてを失います。

地理的に離れた複数の場所に複製されているかを確認してください。多くのクラウド事業者は、この点について標準的に対応していますが、確認しておくに越したことはありません。

誤操作による削除には、どう備えるか?

システムの障害や災害よりも、実際に起こりやすいのはこちらです。担当者が誤って記録を削除してしまう、あるいは誤った情報で上書きしてしまう。

備えとしては、削除や変更の履歴が残る仕組みと、一定期間はさかのぼって復元できる仕組みが有効です。導入前に、こうした機能があるかを確認してください。

自社でも控えを持つべきか?

事業者のバックアップ体制がどれだけ充実していても、事業者任せにしないという考え方には価値があります。とくに、進行中の重要な案件については、最低限の情報を別の形でも残しておく運用が考えられます。

これは仕組みを疑うということではなく、単一の障害点を作らないという一般的な備えの考え方です。紙のメモでも、別のシステムへの控えでも、方法は問いません。

BCP(事業継続計画)として、何を決めておくべきか?

データが一時的に使えなくなった場合、業務をどう続けるかを事前に決めておくことがBCPの中核です。葬儀社にとって、この計画には次のような項目が含まれます。

これらを決めておかないと、実際に障害が起きたとき、その場の判断だけで乗り切ることになります。平時に決めておくからこそ、有事に迷わず動けます。

復旧にかかる時間の目安は、どう確認するのか?

事業者に、過去に障害が発生した際の復旧までの時間を尋ねてください。「起きたことがない」という回答は、備えがないことの裏返しである場合もあります。止まったときの話を聞くことで、その事業者の備えの実態が見えます。

復旧の目標時間が数時間なのか、数日なのかによって、こちら側で用意すべき代替手段の規模が変わります。

複数の事業者を使っている場合、注意すべき点は何か?

電話の受付、記録の管理、通知の送信を、それぞれ別の事業者に委託している場合、1つの事業者で障害が起きても、他は動き続けることがあります。この場合、どこまでのデータが失われ、どこからが無事なのかを把握する必要があります。

複数の事業者にまたがる構成は、単一障害点を減らす利点がある一方で、障害時の状況把握を複雑にします。どちらの特性も理解したうえで構成を検討してください。

従業員には、何を周知しておくべきか?

システムが使えなくなったときに、誰に連絡し、どう対応すればよいかを、あらかじめ周知しておいてください。障害が起きてから手順を考えるのではなく、平時に一度共有しておくことで、混乱を減らせます。

簡単な一枚の手順書でも構いません。連絡先、代替の受電方法、記録の残し方。これだけでも、実際の障害時には大きな助けになります。

まず何から始めればよいのか?

いま使っている事業者に、バックアップの頻度、保管場所、復元の実績を尋ねてください。答えが曖昧であれば、それ自体が重要な情報です。

そのうえで、進行中の重要な案件について、最低限の控えを別の形で残す運用を検討してください。「起きないはず」という前提ではなく、「起きたときにどうするか」を決めておくことが、この分野の備えの本質です。

クラウドサービスを使う場合、責任の範囲はどこまでか?

クラウド上でデータを管理する仕組みを使う場合、多くの事業者は「共有責任モデル」と呼ばれる考え方を採用しています。事業者が担う部分と、利用者が担う部分が分かれているという考え方です。

具体的には、事業者はシステムの基盤やデータセンターの物理的な保護を担いますが、アクセス権限の設定や、誤操作の防止は利用者側の責任とされることが一般的です。この線引きを理解していないと、「事業者に任せているから安心」という誤った前提で運用してしまう危険があります。契約内容を確認し、どこまでが自社の責任範囲かを把握してください。

アクセス権限の設計は、バックアップとどう関係するのか?

一見別の話に思えますが、深く関係しています。誰でも記録を削除・変更できる状態だと、誤操作や悪意ある操作によるデータ消失のリスクが高まります。必要な人だけがアクセスでき、重要な操作には確認の手順を挟む設計にしておくことで、そもそもバックアップに頼らずに済む場面を減らせます。

退職した担当者のアクセス権限が残ったままになっていないか、定期的に確認することも、この観点からは重要な備えの一つです。

紙の記録を併用することに、意味はあるのか?

すべてをデジタルで完結させる運用が主流になっていますが、進行中の重要な案件について、紙のメモを併用することには一定の価値があります。システムに一時的にアクセスできない状況でも、手元の紙があれば最低限の対応は続けられます。

ただし、紙の記録は、デジタルの記録を補完するものであり、代替するものではありません。個人情報を含む紙の記録は、デジタルデータと同様、あるいはそれ以上に厳重な管理が必要です。保管場所や廃棄の方法についても、あらかじめ定めておいてください。

バックアップの体制を、契約後に確認し続ける必要はあるか?

契約時に確認した内容が、その後も維持されているとは限りません。事業者の体制変更や、システムの更新によって、バックアップの頻度や方法が変わることがあります。

年に一度程度、契約時に確認した内容が今も有効かを事業者に問い合わせることをお勧めします。とくに、事業者の合併や事業譲渡があった場合は、体制が大きく変わっている可能性があるため、あらためての確認が必要です。

実際に障害を経験した場合、その後どう対応すべきか?

万一、データの一部が失われる、あるいはアクセスできない事態が発生した場合、まず影響範囲を把握してください。どの案件の、どの期間のデータが影響を受けたのか。この把握が遅れると、対応すべきご遺族への連絡も遅れます。

影響を受けたご遺族には、可能な範囲で状況を説明し、必要な情報を再度伺うことになる場合は、丁重にお詫びしたうえでお願いする必要があります。事態が起きたことよりも、その後の対応の丁寧さが、信頼を保てるかどうかを分けます。そして、事態が収束したあとは、原因と再発防止策を整理し、記録として残してください。

BCPは、一度作ったら終わりなのか?

作成した時点の体制や契約内容に基づいて作られたBCPは、時間が経つと実態と合わなくなることがあります。事業者を変更した、拠点が増えた、担当者が入れ替わった。こうした変化があった際は、BCPの内容も見直す必要があります。

年に一度など、定期的な見直しの機会をあらかじめ決めておくことで、BCPが形骸化することを防げます。見直しの際は、実際にその内容で対応できるかを、簡単な訓練やシミュレーションを通じて確認することも有効です。

小規模な会社でも、本格的なBCPが必要か?

大企業向けの詳細なBCP文書を、そのまま小規模な葬儀社に当てはめる必要はありません。重要なのは文書の形式ではなく、「データにアクセスできなくなったら、まず何をするか」が関係者全員に共有されていることです。

紙一枚に、連絡先と代替の受電方法、記録の残し方をまとめておくだけでも、実務上は十分に機能します。形式にこだわるより、実際に機能する簡潔な備えを優先してください。規模に応じた身の丈に合った備えを作ることが、継続的に運用できる鍵になります。

個人情報の観点から、バックアップ自体にリスクはあるのか?

バックアップは、データを守るための仕組みですが、同時に個人情報の複製が増えるという側面も持ちます。バックアップされたデータが、本来の保管場所と同じ水準で保護されているかを確認する必要があります。

アクセス権限が本番環境より緩い、暗号化がされていない、といった状態でバックアップが保管されていると、本来の保護対象であるはずのバックアップ自体が、漏えいの入り口になりかねません。バックアップを取ることと、そのバックアップを安全に保管することは、別の課題として意識してください。

訓練やシミュレーションは、どのくらいの頻度で行うべきか?

BCPの内容を、実際に機能するか確認するための訓練は、年に一度程度でも十分に価値があります。頻繁に行う必要はありませんが、まったく行わないままだと、いざというときに手順書通りに動けるかが分かりません。

簡単な机上の確認だけでも構いません。「もしいまシステムにアクセスできなくなったら、誰が何をするか」を関係者で一度話し合ってみるだけで、手順の穴や、周知が足りていない部分に気付くことができます。大掛かりな訓練を計画するより、まずはこの程度から始めることをお勧めします。

BCPを社外の関係者に共有すべき場面はあるか?

通常、BCPの詳細は社内限りの情報ですが、提携している事業者や、緊急時に協力を仰ぐ可能性のある関係先とは、必要な範囲で情報を共有しておくことが有効です。たとえば、システムが使えない場合の代替の連絡手段を、事業者側にも知らせておくと、復旧作業と並行して連携が取りやすくなります。

すべてを共有する必要はなく、相手が動くために必要な情報だけに絞ることがポイントです。過不足のない共有によって、いざというときの連携がスムーズになります。

備えを完璧にすることを、目指すべきか?

完璧なバックアップ体制やBCPを一度に作り上げることは、現実的には困難です。重要なのは、いま把握できているリスクに対して、できる範囲の備えを積み重ねていくことです。「まだ不十分だから着手しない」のではなく、「不完全でも、今できることから始める」という姿勢のほうが、実際の備えとしては機能します。時間をかけて少しずつ精度を上げていくことを前提にしてください。

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