「ありがとうございます」は、葬儀の電話では使えない ── 現役ディレクターへのヒアリングで、AI受付の設計が6か所ひっくり返った話

葬儀社向けのAI電話受付を開発していて、私たちは「業界特化」を名乗るには十分な準備をしたつもりでいました。
ところが2026年5月、現役の葬儀ディレクターの方に一度お話を伺っただけで、会話設計の6か所を書き直すことになりました。そのうちのひとつが、日本語のビジネス電話で最も使われるであろう「ありがとうございます」という一言です。この記事では、そのヒアリングで何が覆り、AI受付『Tomori(灯)』の設計をどう変えたのかを、実際の変更点そのままにお伝えします。葬儀社の夜間電話対応をAIに任せるかどうかを検討されている方にとって、「何を基準に選べばよいのか」の判断材料になるはずです。

「業界特化」を名乗るAIの多くは、語彙を差し替えただけで終わっている

音声AIの受付サービスは、この2年で一気に増えました。その多くが「業界特化」を掲げています。しかし、中身を見ると、やっていることは用語の置き換えであることがほとんどです。「死亡」を「ご逝去」に、「遺体」を「故人様」に。禁止ワードのリストを渡して、あとは汎用の大規模言語モデルに任せる。

私たち自身、開発の初期はその発想から出ていませんでした。葬儀に関する書籍やマナーサイトを読み込み、忌み言葉のリストを作り、お悔やみの表現を何パターンも用意しました。丁寧に作ったつもりでした。

それが誤りだと分かったのは、実際に電話を受けている方に聞いたときです。現場で問題になるのは、語彙そのものではありませんでした。何を、どの順番で、どれだけ聞くか。何を約束し、何を約束しないか。そして、電話を切ったあとに誰がどうやって起きるか。壊れていたのは、そちらの設計でした。

誰に、何を聞いたのか(前提)

先に前提をはっきりさせておきます。これは1名の葬儀ディレクターの方へのヒアリング結果であり、業界全体の総意ではありません。それでも設計を書き換えるに足ると判断した理由は、回答が具体的で、かつ私たちの想定と真逆だったからです。

まず、業務の実数値を伺いました。

項目回答
月間の問い合わせ件数約150件(葬儀依頼40・事前相談10・その他100)
夜間の着信月5〜15件
1件あたりの受付時間5〜10分
お迎え車両が出発するまで1〜2時間
受付ミス・クレームの頻度月1〜3回
新人が受付に立てるまでの研修期間1〜4週間
24時間対応の体制自社で対応(宿直1名)

注目していただきたいのは、夜間の着信が月5〜15件しかないという点です。1日あたり0.2〜0.5件。この件数のために、誰かが毎晩起きて待っています。そして本人の言葉によれば、最大の痛みは件数ではなく「宿直1名体制の脆弱性」でした。1人が体調を崩すと、その夜の受付が成立しません。

もうひとつ、痛みの筆頭に挙がったのが「声のトーンの均一化」です。受付のクレームは、聞き漏らしよりも「喋り方」から発生する。眠い時間帯に起こされた人の声は、どうしても平常時と同じにはなりません。これは根性論では解決しない、と現場の方自身が語っておられました。

ひっくり返った設計、6か所

1. お悔やみの言葉は「ご愁傷様でございます」一択でよかった

私たちは、宗派や状況に応じてお悔やみの表現を使い分ける設計にしていました。仏式なら「ご冥福をお祈りいたします」、それ以外なら別の表現を、といった具合です。丁寧さの証明のつもりでした。

返ってきた答えは、こうです。

「ご愁傷様でございます以外は使いません。宗派ごとの使い分けも基本的に不要です」

理由を考えれば当然でした。電話を受けた時点で、相手の宗派は分かりません。「ご冥福をお祈りいたします」はキリスト教や浄土真宗では適切でない場合があります。使い分けようとすること自体が、間違える可能性を作っていたのです。

結果、AIが使えるお悔やみの表現を1つだけに絞りました。しかも「1回だけ、繰り返さない」という制約も付けました。表現の幅を削ることが、品質の向上になった珍しい例です。

2.「ありがとうございます」が、弔事では使えない

これは完全に想定外でした。避けるべき表現を伺ったところ、「死亡」「死んだ」「大往生」と並んで、「ありがとうございます」が挙がりました。弔事の場で謝意を表す言い回しは適さない、というのが理由です。代わりに使うのは「感謝致します」。

私たちのAIは、当時この言葉を普通に使っていました。日本語のビジネス電話で最も自然な相槌だからです。忌み言葉のリストをどれだけ真面目に作っても、「ありがとうございます」が禁止語に入る発想は出てきません。机上の調査からは出てこず、現場に伺って初めて分かった知識でした。

ヒアリング後、会話ルールに次の1行を追加しました。

「ありがとうございます」(弔事で謝意表現は不適。「感謝致します」に置換)

そして、この修正はプロンプトを1行足して終わりではありませんでした。既存の会話設計のあらゆる箇所に、この言葉が散らばっていたためです。禁止語をひとつ増やすというのは、そういう作業でした。

3. 最初に聞くのは「ご関係」ではなく「故人様のお名前」だった

私たちは、まず電話をかけてきた方と故人様のご関係(続柄)を伺う順序にしていました。誰が話しているのかを把握してから本題に入るのが丁寧だと考えたためです。

実際の現場の順序は、次のとおりでした。

  1. 故人様のお名前
  2. ご連絡者のお名前
  3. 故人様から見たご関係
  4. お迎えの場所
  5. お連れする場所
  6. 宗派
  7. 故人様のご住所
  8. お電話番号

必須は「故人様のお名前・お迎えの場所・お連れする場所、可能であれば宗派」。お名前が最優先です。理由は業務を追えば分かります。お迎えの手配は、故人様のお名前と場所さえあれば動き始められるからです。ご関係は、その後で構いません。

順序を入れ替えただけの、地味な修正です。しかしご家族が最も動揺している最初の1〜2分で、業務が前に進む情報から聞くかどうかは、結果として大きな差になります。

4. 全項目の復唱は、かえって現場に合わない

聞き取った内容を最後にすべて読み上げて確認する ── これも私たちが「丁寧さ」として実装していたものです。現場の回答は「重要項目のみ復唱する。全項目の復唱はしない」でした。

深夜に大切な方を亡くされた直後の方に、8項目を読み上げて「お間違いございませんか」と確認する。想像すれば、それが親切ではないことは分かります。復唱するのは、間違えると業務が止まる項目 ── お迎えの場所と、お連絡先。それで足ります。

5. お迎えの時間は「確認します」ではなく「1時間〜1時間半」と答える

最も実務に直結した発見が、これでした。クレームが発生するパターンを伺ったところ、こう返ってきました。

「電話の時点ではほぼ発生しません。決まった時間を伝えられず、不安にさせた場合に発生します」

私たちはそれ以前に、「AIが不確かなことを約束してはいけない」というルールを入れていました。安全側に倒したつもりでした。ところが実際には、その安全策そのものが不安を生み、クレームの原因になり得たのです。

この会社ではお迎えは基本1時間〜1時間半で統一されており、それは夜間でも変わらないとのことでした。営業エリア外の場合のみ、搬送業者の確認後に折り返す。つまり、答えられる時間は最初から決まっていたわけです。

そこで会話ルールを「約束しない」から、「決まっている範囲は具体的に伝え、決まっていない部分だけを折り返しにする」へと変更しました。曖昧さを減らすことが、そのまま安心につながります。

6.「ご逝去の方は1を、ご相談は2を」は、最もやってはいけない

着信の用件を振り分けるなら、番号入力(IVR)が確実です。技術的には最も簡単で、間違いも起きません。

これについての回答は明確でした。「よくあるカスタマーセンターのような対応はクレームにつながる」。深夜、動揺しているご家族に番号を押させる。それは冷静に対応できない相手を苛立たせるだけだ、と。

あわせて、この会社ではすべての着信に「はい、○○葬儀社でございます」で統一していることも分かりました。葬儀のご依頼か、事前のご相談か、料金のお問い合わせか ── 第一声では区別しない。名乗ってから、相手の話を聞いて判断する。

これは、AIにとっては難しい設計です。番号で振り分ければ確実なものを、会話から聞き分けなければなりません。しかし現場がそうしている以上、そこを避けて「業界特化」を名乗ることはできないと判断しました。現在のTomoriは、お悔やみを最初から述べることを禁止しています。相手がご逝去を明言するまでは、お悔やみは失礼にあたるからです。

そしてもう一点。「AIであることは、はっきり告知すべき」という要望もいただきました。隠して対応し、後で気付かれたときに失う信頼のほうが大きい、という理由です。現在は第一声で「AIによる受付がご対応させていただいております」と明示しています。

電話に出るだけでは、夜間対応は終わらない

ヒアリングで最も重い指摘は、実は会話設計の外にありました。開発チームへのメッセージとして、こう書かれていました。

「AIが電話を受けて担当へLINEなりメッセージで送信、寝ている時はアラームや電話など必ず起こす対応も必要」
「担当者からの折り返し電話も安心感を高めるポイント。人が介在する安心感

ここが、AI受付を検討するときに最も見落とされる部分だと考えています。AIが完璧に電話を受けても、担当者が朝まで気付かなければ、業務としては何も起きていません。通知が飛んだかどうかではなく、人が起きたかどうかが結果を決めます。

そこでTomoriには、通話後の動作として次を実装しています。

「1」を押させる設計にしたのは、着信履歴が残っただけでは起きた証拠にならないからです。寝ぼけて切ってしまう可能性もあります。ご家族には番号を押させない一方で、担当者には押させる。相手によって設計を変えるのが正しいと判断しました。

「うちのAIは丁寧です」を、数字で言えるようにする

ここまで挙げたルールは、守られて初めて意味を持ちます。しかし音声AIの応対品質は、通話を聞き返さない限り誰にも分かりません。100件受けたうち、何件で忌み言葉が出たのか。それを人手で確認するのは非現実的です。

そこでTomoriでは、すべての通話を通話終了後に自動採点しています。葬儀社向けに独自に作った8つの評価軸に、重みを付けたものです。

評価軸重み見ているもの
業務達成度20%必要な情報が漏れなく集まり、配車や引継ぎが実行されたか
共感の質20%お悔やみのタイミングと自然さ。先に述べていないか
質問の目的明示15%「お迎えの手配のために」と理由を添えているか。詰問調でないか
復唱・確認10%重要項目を聞いた直後に復唱しているか
忌み言葉の回避10%使ってはいけない表現が出ていないか
フェーズ遷移の適切さ10%用件確認・共感・聞き取り・確認・実行の移行が適切か
日本語の品質10%敬語の崩れ、英語の混入がないか
会話の自然さ5%一方的に話していないか。相手の話す余地があるか

この表は、単なる採点表ではありません。ヒアリングで得た知見を、そのまま検査項目に翻訳したものです。たとえば「共感の質」では、用件を聞く前にお悔やみを述べた場合を減点としています。丁寧に見える振る舞いを、あえて減点する。この基準は、現場に聞かなければ書けませんでした。

採点は毎回の通話に対して自動で走り、管理画面から確認できます。「今月は忌み言葉の回避が落ちている」といった変化を、通話を聞き返さずに把握できる状態を目指しています。

うまくいかなかったこと

良かった話だけでは判断材料になりませんので、つまずいた点も書いておきます。

深夜の無音で、AIが「ご視聴ありがとうございます」と聞き取る

音声認識は、無音や雑音に対して、実際には話されていない言葉を出力することがあります。学習データに動画の音声が大量に含まれているため、「ご視聴ありがとうございます」「チャンネル登録お願いします」といった定型句が高い頻度で現れます。

深夜のご逝去のご連絡で、ご家族が言葉に詰まって黙り込んだ数秒。そこにこの文字列が入ると、AIは相手が話しかけてきたと判断して応答を始めます。しかも、その言葉自体が先ほどの忌み言葉「ありがとうございます」を含んでいます。

現在は30種類以上の定型句をフィルタで除外しています。加えて、「ありがとうございました」「失礼します」といった終話の挨拶は、終話フェーズ以外で出たら誤検知として捨てるという、会話の段階に応じた判定を入れています。一方で「はい」「うん」といった短い相槌は、本物と区別できないためフィルタしていません。捨てすぎると、今度は本当の返事を無視してしまうためです。

相手が話し終えてから、AIが話し始めるまでの沈黙

ご家族が話し終えてからAIが応答を始めるまで、0.5〜1.5秒の無音が生じます。日中の問い合わせなら気になりませんが、深夜の緊迫した場面では長く感じられます。「うーん」のような考え中の音を挟む方法も試しましたが、AI自身の声を拾ってしまう問題があり、現在は無効にしています。ここは未解決の課題です。

そもそも、ヒアリングが1件では足りない

今回覆った6か所は、あくまで1社の運用です。「ありがとうございます」を忌み言葉とする認識が業界共通なのか、地域や規模で異なるのかは、まだ分かっていません。この記事の内容も、次のヒアリングで覆る可能性があります。それでも公開しているのは、間違いを含んだ具体を出したほうが、正しい一般論より現場の方の反応をいただけると考えているためです。

AI受付を検討するとき、何を確認すればよいか

ここまでの経験から、葬儀社の方がAI受付を比較検討される際に、実際に試していただきたい確認方法をまとめます。デモの席で、次の6つを試してみてください。

  1. 用件を言わずに黙ってみる。AIが先にお悔やみを述べたら、その時点で業務を理解していません。ご逝去と決めつける応答は失礼にあたります。
  2. 「料金を知りたいだけ」と言ってみる。弔事の応対に引きずられずに切り替えられるか。第一声で用件を振り分けていないかが分かります。
  3. 番号入力を求められないか確認する。「ご逝去の方は1を」が出てきたら、現場の方が最も避けたい応対です。
  4. お迎えの時間を聞いてみる。「確認して折り返します」しか返さないなら、不安を残す応対になります。自社の標準時間を答えられる設定になっているかを確認してください。
  5. 電話を切ったあと、担当者が起きるまでを実演してもらう。通知が飛ぶところまでで話が終わるなら、夜間対応は解決していません。起きなかった場合に次に何が起きるかまで確認してください。
  6. 応対品質をどう記録しているか聞く。録音があるかではなく、毎回の通話が自動で採点され、後から数字で振り返れるかを確認してください。ここが最も差の出る部分です。

この6つは、Tomori以外のサービスを検討される場合にもそのまま使えます。私たち自身が、ヒアリングで指摘されるまで4つを間違えていた項目です。

導入後、何の数字を見るか

AI受付の効果は「便利になった」という感想では測れません。次の数字を、導入前に取っておくことをおすすめします。

特に3番目の「担当者が受領を確認するまでの時間」は、これまで測りようがなかった数字です。AIが受けることで初めて記録が残ります。

まとめ

葬儀社向けのAI受付を作るうえで、私たちが1回のヒアリングから学んだことは3つに集約されます。

そして、この3つを導き出せたのは、書籍でもマナーサイトでもなく、実際に夜の電話を受けている方の一言でした。

ご相談ください

Tomori(灯)は、株式会社VODEが開発する葬儀社向けの24時間365日AI電話受付です。深夜・早朝のご逝去のご連絡を一次対応で承り、引継ぎメモを自動生成し、当番の担当者へお繋ぎします。

次のようなお悩みをお持ちでしたら、一度お話をお聞かせください。

あわせて、現場の方へのヒアリングにご協力いただける葬儀社様も探しております。この記事に書いた6か所も、まだ1社分の知見にすぎません。「うちはご愁傷様一択ではない」「その順番では聞かない」といったご指摘こそ、次の設計改善につながります。導入のご検討でなくとも構いません。

Tomori は、葬儀社の夜間・早朝のお電話を AI が一次対応し、引継ぎメモを添えて担当者へお繋ぎするサービスです。

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