AI受付を作り始めたとき、私たちは1つの長いプロンプト(AIへの指示文)にすべてを書いていました。
名乗り方、お悔やみの言い方、聞くべき項目、禁止語、確認の手順、締めくくり方。全部を1枚に詰め込んだ結果、AIは指示の半分を無視するようになりました。この記事では、葬儀の電話を5つの段階に分けた理由と、AI自身に次へ進ませる仕組み、そして会話が詰まったときの逃げ道について書きます。
1枚のプロンプトに全部書くと、何が起きるか
指示が長くなるほど、守られる割合は下がります。とくに「常にこうしなさい」と「この場面ではこうしなさい」が混在すると、AIは後者を見落とします。
具体的には、こういう失敗が出ます。
- お悔やみを述べたあとも、何度も繰り返す
- 共感すべき場面で、いきなり項目を聞き始める
- まだ何も伺っていないのに、確認の読み上げを始める
- 締めくくりの挨拶が、会話の途中で出る
いずれも「その場面では正しくない」というだけで、指示文には書いてあります。書いてあるのに守られないのは、指示が多すぎるからです。
会話を、5つの段階に分ける
そこで、葬儀の電話を5つの段階に分け、それぞれに専用の指示を用意しました。
| 段階 | この段階でやること | この段階でやってはいけないこと |
|---|---|---|
| 用件確認 | 名乗り、AIである旨の告知、用件を伺う | お悔やみを述べる、個人情報を聞く |
| 共感 | お悔やみを1回だけ述べ、落ち着いていただく | すぐに質問へ入る、お悔やみを繰り返す |
| 聞き取り | 目的を添えて、必要な項目を1つずつ伺う | 項目を並べて連続で聞く |
| 確認 | 重要項目を復唱し、承諾をいただく | 全項目を読み上げる |
| 実行 | 次の段取りをお伝えし、締めくくる | 新しい質問を始める |
効果は、指示が短くなったことよりも「やってはいけないこと」を段階ごとに書けるようになったことにあります。「お悔やみを述べるな」という指示は、用件確認の段階でだけ意味を持ちます。共感の段階では逆に必須です。1枚にまとめると、この矛盾を表現できません。
共通で守るべきことは、別に置く
一方で、段階に関係なく常に守るべきこともあります。これは共通の絶対ルールとして、どの段階の指示にも必ず添えています。
- 必ず日本語のみ。英語を混ぜない
- 質問の前に、必ず目的・理由を一言添える
- 相手が話し出したら、即座に発話を止める
- 1回の発話は1〜2文。長い説明は禁止
- 重要情報は復唱して確認する
- 忌み言葉を使わない
- 「番号を押してください」といった応答は禁止
この分け方には、実務上の利点もあります。共通ルールを直せば、全段階に一度に効きます。ヒアリングで「ありがとうございます」が忌み言葉だと分かったとき、直したのはこの共通ルールの1か所でした。
誰が「次の段階」を決めるのか
設計上、いちばん迷ったのがここです。
素直な方法は、条件を決めて機械的に進めることです。「必要な項目が3つ埋まったら次へ」といった具合です。しかし実際の会話は、そこまできれいに進みません。ご家族が自分から状況を話し始めることもあれば、こちらの質問に答えないまま別の相談を始められることもあります。
私たちは、AI自身に「次の段階へ進みます」と宣言させる方式を選びました。会話の中で、AIが次へ進むべきだと判断したら、専用の合図を出す。それを受けて、システムが次の段階の指示に切り替えます。
判断の材料も、段階ごとに明示しています。たとえば用件確認の段階では、こう書いてあります。
弔事(「亡くなりました」「逝去」等の明言)→ 共感へ
それ以外(相談・料金・変更等)→ 聞き取りへ
ここが、この設計の要になっています。ご逝去の連絡かどうかを、AIが会話から聞き分ける。番号入力で振り分けないと決めた以上、この判断はAIが持つしかありません。そして事前相談の方をうっかり共感の段階へ送ると、いきなりお悔やみを述べる事故になります。
会話が詰まったときの逃げ道
AIに判断を委ねると、必ず起きる問題があります。同じ段階から出てこなくなることです。
聞き取りの段階で、ご家族が動揺していて答えられない。AIは丁寧に聞き直す。また答えられない。この往復が続くと、いつまでも次へ進みません。深夜の電話でこれは最悪です。
そこで、同じ段階で一定のターン数を超えたら、強制的に次へ進める仕組みを入れています。閾値は10ターンです。
10という数字に理論的な根拠はありません。1件あたりの受付時間が5〜10分と伺っているので、その中で1つの段階に10往復かかっているなら、それは何かが起きているという判断です。完璧に聞き出すことより、途中でも担当者に渡すことを優先するという方針の表れでもあります。
実際、ヒアリングでも「確認すべき項目は最小限に」「詳細は詳しく確認させない」という要望をいただいています。全部聞き出すのはAIの仕事ではない、というのが現場の感覚でした。
この骨格は、業界をまたいで使えます
用件確認 → 共感 → 聞き取り → 確認 → 実行。この5段階は、葬儀に固有のものではありません。ペット葬儀でも、他の緊急性の高い一次受付でも、骨格は同じです。
業界ごとに変わるのは、各段階の中身です。共感の段階で何と言うか。聞き取りの段階で何を、どの順で伺うか。そこだけを差し替えられる作りにしています。
逆に言えば、「業界特化」を名乗るために本当に必要なのは、この差し替え部分の質です。骨格だけなら、どの業界でも同じものが使えてしまいます。
デモで確かめられること
段階が分かれているかどうかは、外から試せます。
- 「料金を知りたい」とだけ言ってみる。お悔やみを述べずに聞き取りへ進めば、用件を聞き分けています
- お悔やみを述べたあと、まだ黙っていてみる。お悔やみを何度も繰り返すなら、段階が分かれていません
- 質問に答えず、関係のない話を続けてみる。いつまでも同じ質問を繰り返すなら、詰まったときの逃げ道がありません
3番目は、実際の深夜の電話で頻繁に起きる状況です。動揺しておられる方は、質問に順番どおり答えてはくださいません。
まとめ
- 1枚のプロンプトに全部書くと、指示は書いてあるのに守られなくなります
- 段階を分ける最大の利点は、段階ごとに「やってはいけないこと」を書けることです
- 共通ルールは別に置きます。1か所直せば全段階に効きます
- 次へ進む判断はAIに持たせました。番号入力で振り分けないと決めた以上、聞き分けはAIの仕事です
- 詰まったときは、途中でも次へ進める。全部聞き出すことより、担当者へ渡すことを優先します
ご相談ください
次のような状況でしたら、一度お話をお聞かせください。
- 自動応答を試したが、こちらの話を聞かずに質問を続けられた。ご遺族には使えないと判断した
- 事前相談や料金の問い合わせも同じ番号で受けている。用件を聞き分けられるか確かめたい
- 受付の手順を文書化したいが、場面ごとの分け方が定まらない。整理の枠組みが欲しい
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