葬儀社の宿直は、なぜ限界なのか ── 月5〜15件の夜間着信と、1人体制が抱えるリスク

夜間の着信は、月に5〜15件。
これは私たちが2026年5月に、現役の葬儀ディレクターの方から伺った実数です。1日あたりに直せば0.2〜0.5件。その数件のために、毎晩どなたかが起きて待っています。この記事では、夜間の着信件数と、それを受けるための体制がなぜ釣り合わないのか、そして現場の方ご自身が挙げられた痛みの中身を整理します。宿直の見直しを考えておられる葬儀社の方に向けて書いています。

先に、数字を並べます

お話を伺ったのは、従業員21〜50名規模、地方で複数の市町を営業エリアとする葬儀社のディレクターの方です(経験5〜10年)。1名の回答であり、業界全体の平均ではありません。それでも、規模感をつかむ手がかりにはなると考えて公開します。

項目回答
月間の問い合わせ件数約150件(葬儀依頼40・事前相談10・その他100)
夜間の着信月5〜15件
1件あたりの受付時間5〜10分
お迎え車両が出発するまで1〜2時間
受付ミス・クレームの頻度月1〜3回
新人が受付に立てるまでの研修期間1〜4週間
24時間対応の体制自社で対応(宿直1名)
取り逃した電話なし(24時間体制のため)

注目していただきたいのは、最後の2行です。宿直1名で、取り逃しはゼロ。体制としては、きちんと機能しています。問題は、それが機能し続けられるかどうかにあります。

件数が少ないのに、人を減らせない理由

1. 第一報を受けた会社が、そのまま施行を担当する

葬儀業界の構造として、ご逝去の第一報を受けた葬儀社が、そのまま施行を担当するケースが大半です。深夜の1本に出られなかった、ただそれだけで受注が失われます。しかも失われるのは売上だけではありません。大切な方を亡くされた直後にかけた電話がつながらなかったという体験は、その会社への信頼を一度で損ないます。

月40件の葬儀を扱う会社であれば、1件の重みは決して小さくありません。「たまに取り逃す」が許容できない構造だからこそ、件数が少なくても人を置き続けるしかない。ここが他業種の夜間対応と決定的に違うところです。

2. 留守番電話と転送では、初動が始まらない

件数が少ないなら留守電で、という発想は自然です。しかし、ご家族の立場で考えれば答えははっきりしています。大切な方を亡くされた直後に、機械音声で「発信音のあとにメッセージをどうぞ」と告げられる。その体験は、留守電を残していただけない可能性のほうが高いでしょう。

転送も同じです。転送先の個人スマートフォンで受ければ、聞いた内容は受けた人の頭の中にしか残りません。お迎えの手配に必要な情報が揃っているかどうか、朝になるまで誰にも分かりません。

3. 代われる人が、いない

そして最大の問題がこれです。ヒアリングで挙げられた痛みの2番目が、「宿直1名体制の脆弱性」でした。1人が体調を崩せば、その夜の受付が成立しません。代わりを立てようにも、受付に立てるまでには1〜4週間の研修が要ります。急に頼める仕事ではないのです。

現場が挙げた痛み、上位3つ

ヒアリングでは「困っていることを順に挙げてください」とお尋ねしました。返ってきた順序が、私たちの想定とは違っていました。

1位:声のトーンの均一化

意外にも、最初に挙がったのは件数でも人手でもありませんでした。

「喋り方によるクレームが圧倒的です」

深夜2時に起こされた人の声は、日中と同じにはなりません。眠気、疲労、その日の体調。どれも本人の努力の問題ではありませんが、受け取るご家族には関係がありません。応対品質が、その夜たまたま起きた人のコンディションで決まってしまう。これが現場の一番の痛みでした。

後にこの方は、AI受付に興味を持つ理由として「人と違い、声のトーンを一定に保てるから」と書いておられます。AIの利点として真っ先に挙がったのが、賢さでも速さでもなくムラのなさだったのは、私たちにとって示唆的でした。

2位:宿直1名体制の脆弱性

前述のとおりです。加えて「体調を崩すと回らない」「寝不足」「葬儀スタッフの疲労蓄積」という言葉が並びました。夜間対応は、その夜だけの負担では終わりません。翌日の施行にも影響します。

3位:採用が来ない、高年齢化

24時間体制を前提とする職場に、人は集まりにくくなっています。採用コストは上がり、それでも入社後に夜勤の実態を知って早期に離職するケースがある。結果として在籍者の年齢が上がり、宿直を担える人がさらに減っていきます。

この3つは、独立した問題ではありません。人が減る → 1人あたりの宿直が増える → 疲労で声のトーンが落ちる → クレームが増える → さらに人が辞める。順に並べると、ひとつの循環になっていることが分かります。

クレームは、聞き漏らしからは起きていない

もうひとつ、想定と違った回答があります。受付起因のクレームがどんなときに起きるかを伺ったところ、こうでした。

「電話の時点ではほぼ発生しません。決まった時間を伝えられず、不安にさせた場合に発生します」

つまり、項目を聞き漏らしたことが直接クレームになるわけではないのです。ご家族が不安なまま電話を切ることが原因になる。

この会社ではお迎えは基本1時間〜1時間半で統一されており、それは夜間でも変わらないとのことでした。営業エリア外の場合のみ、搬送業者に確認して折り返す。答えられる時間は、実は最初から決まっていたわけです。

この話は、夜間対応を外部に委ねるときに効いてきます。「確認して折り返します」しか言えない相手に任せると、クレームの種を増やすことになるからです。自社の標準的なお迎え時間を、その場で答えられる状態にしておく必要があります。

では、何を変えられるのか

宿直をゼロにする、という話ではありません。ヒアリングでも「任せたい業務」と「任せたくない業務」は明確に分かれていました。

区分内容
任せたい夜間の初動対応
任せたくない約束事、儀式の進行、見積

境界がはっきりしています。「最初の一声を受け、必要なことを伺い、担当者に正確に渡す」までは任せられる。そこから先の判断と約束は人が持つ。この分け方は、開発チームへのメッセージにも表れていました。

「AIの導入で注意すべき点は、嘘をつかない、声のトーン、詳細は詳しく確認させないなど。人との分業で質が成り立つと考えます」

ここで重要なのは、AIに全部やらせるという発想が現場から出ていないことです。求められているのは、夜の1本目を落とさず、担当者を確実に起こし、朝までに状況が分かる状態にすること。それだけです。

自社の状況を測る、5つの数字

夜間体制を見直すかどうかを考えるとき、感覚ではなく数字で見ることをおすすめします。次の5つを、今の体制のうちに取っておいてください。

  1. 夜間(22時〜翌7時)の着信件数/月。何件のために宿直しているかが分かります
  2. そのうち、ご逝去の第一報の件数。残りは事前相談や問い合わせで、緊急度が違います
  3. 宿直を担える人数。この数が3を切っていれば、1人欠けた時点で回りません
  4. 受付起因のクレーム件数/月。原因が「聞き漏らし」か「不安にさせた」かも分けて記録してください
  5. お迎え車両が出発するまでの時間。夜間と日中で差が出ているなら、そこが改善余地です

特に3番目は、社内で共有されていないことが多い数字です。「宿直に立てる人が実質何人か」を数えてみると、想像より少ないことがあります。

まとめ

会話設計そのものについては、同じヒアリングで私たちの設計が6か所ひっくり返った話を別の記事に書いています。あわせてご覧ください。

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