この記事の要点
- 求められてから考えると対応がばらつく。手順を先に決めておく。
- 最大の落とし穴は派生データ。元を消しても、要約や引用が残っていれば消えていない。
- 削除の完了は、実際に検索して確かめる。消したつもりを残さない。
ご遺族から「記録を消してほしい」と求められることがあります。頻度は高くありませんが、起きたときに慌てないよう、手順を決めておく価値があります。制度の適用については専門家にご確認ください。
なぜ、事前に手順を決めておく必要があるのか?
求められてから考えると、対応がばらつくからです。誰が受けるか、どこまで消すか、いつまでに終えるか。決まっていなければ、担当者ごとに判断が変わります。
また、時間もかかります。どこに何があるかを把握していない状態から探し始めると、数日では終わりません。その間、ご遺族はお待ちになります。
手順があること自体が、ご遺族への誠実さの表れでもあります。「すぐにお調べして、いつまでにご連絡します」と言えるかどうかで、受ける印象は変わります。
受付の窓口は、どう決めればよいのか?
一つに決めます。電話でもメールでも受け付けるが、社内では一つの窓口に集約する。複数の入口があると、受けた人が対応して他の人が知らない、という状態が生まれます。
窓口を公開しておくことも大切です。ウェブサイトに問い合わせ先を記載しておけば、ご遺族は迷わずに済みます。探さないと見つからない窓口は、ないのと同じです。
受け付けたら、まず何を確認するのか?
2つです。どなたからのご請求かと、何の削除を求めておられるか。この2つが曖昧なまま進めると、消してはいけないものを消すことになりかねません。
ご本人確認の方法は決めておきます。電話だけで進めるのか、書面を求めるのか。厳しすぎるとご遺族の負担になり、緩すぎると別の問題が生じます。自社の状況に合わせて決めてください。
対象については、「すべて」なのか「通話の録音だけ」なのかで作業がまったく違います。伺ったうえで、こちらが把握している範囲をお示しすると、話が早く進みます。
どこを探せばよいのか?
一覧を持っていることが前提になります。持っていなければ、この場で作ることになります。主な保存先を挙げると次のようになります。
- 顧客・施行の管理システム
- 通話の音声と文字起こし
- そこから作られた要約や引継ぎメモ
- メールの送受信履歴
- 共有フォルダ・紙の書類
- 外部サービスに預けているデータ
この一覧は、削除請求のためだけでなく、日常の管理にも使えます。平時に作っておくことをお勧めします。
いちばんつまずくのは、どこか?
派生データです。通話の音声を消しても、そこから作られた文字起こし、要約、引継ぎメモ、ケースの記録が残っていれば、情報は残っています。
厄介なのは、元を消した時点で「消えた」と思ってしまうことです。音声ファイルが消えたことは目に見えますが、要約のなかに引用された発言までは意識が向きません。
システムを導入する段階で、「この通話を消したら何が消えて、何が残るか」を確認しておいてください。答えられない場合は、実際に消して確かめるべきです。
消せないものは、どう扱うのか?
あります。法令で保存が義務付けられている記録は、削除できません。会計に関する書類などがこれにあたります。
その場合は、消せない理由と、いつまで保存するのかをご説明することになります。「消せません」だけでは納得いただけませんが、根拠と期限を示せば理解いただけることが多いものです。
説明のためにも、どの記録がどの根拠で保存されているかを整理しておく必要があります。
完了は、どう確かめるのか?
実際に検索してください。消したつもりで残っていることは、よくあります。お名前や電話番号で各システムを検索し、出てこないことを確認する。この工程を省かないでください。
あわせて、確認した内容を記録に残します。いつ、どこを、誰が確認したか。後から問われたときに答えられる状態にしておくためです。
ご遺族には、どう報告すればよいのか?
何を消したかを具体的にお伝えします。「対応いたしました」だけでは、何がどうなったのか分かりません。対象と、消せなかったものがあればその理由と期限を添えます。
報告までの期間も、受け付けの時点でお伝えしておくとよいでしょう。期限が示されていれば、待つ側の不安は小さくなります。
この経験を、どう次に活かすのか?
探すのに手間取った場所を記録してください。そこが、日常の管理でも弱い部分です。次に同じことが起きたときに短縮できますし、そもそも保存しない判断につながることもあります。
削除請求への対応は、自社のデータ管理の健康診断でもあります。一度対応してみると、把握できていない場所がはっきりします。
そもそも、持たなければ消す必要もないのではないか?
そのとおりです。削除請求への対応がいちばん簡単なのは、最初から持っていない場合です。業務に必要のない情報を集めない、必要な期間を過ぎたら自動的に消える形にしておく。これが最も確実な備えになります。
「念のため残す」は、必要になる場面より、対応に困る場面のほうが多く訪れます。残すかどうかを迷ったら、目的を言えるかどうかで判断してください。目的を一文で言えない情報は、持たないほうが安全です。
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