この記事の要点
- AIの電話応対は、聞き取る・理解する・考える・話す の4工程を1秒前後で回している。
- 間違いが起きやすいのは最初の「聞き取る」工程。ここでの誤りは後ろの工程では直らない。
- 応答が遅れると相手は話し始めてしまう。速さは快適さではなく、会話が成立するかどうかの条件。
AIが電話に出て会話をする、と聞いたときに何が起きているのか。中身が分かると、どこが得意でどこが苦手かも見えてきます。ここでは4つの工程に分けて説明します。
そもそも、どんな工程を通っているのか?
電話の音声が返答の音声になるまでに、大きく4つの工程を通ります。聞き取る(音声認識)→ 意味を取る → 何を言うか決める → 声にする(音声合成)です。
この4つが、相手が話し終えてから返事が始まるまでのあいだに、順番に走ります。人間の会話では相手が話し終える前から次の言葉を考え始めますが、機械の場合はいったん区切りを検知してから動き出すのが基本です。
4工程それぞれに時間がかかり、それぞれに間違いが起きる余地があります。どの工程で何が起きるのかを知っておくと、うまくいかないときの見当がつきます。
「聞き取る」工程では、何が起きているのか?
電話回線を流れてきた音の波形を、文字の並びに変換します。ここでの難しさは、電話の音質が良くないことです。電話は人の声を伝えるために帯域を絞っており、音楽を聴くような音質ではありません。
さらに、深夜のご逝去の連絡では、病院の廊下、車の中、屋外からかけていることがあります。周囲の音が入り、声が小さく、話し方も普段どおりではありません。この条件下での聞き取りは、静かな部屋での録音とはまったく別の難しさがあります。
ここでの間違いは、後ろの工程では直りません。「山田」を「山下」と聞き取ってしまえば、そのあとどれだけ賢く考えても山下さんとして処理されます。だからこの工程が全体の質を決めます。
「意味を取る」工程では、何をしているのか?
文字になった発言から、必要な情報を取り出します。「父が今さっき病院で亡くなりまして」という一文から、ご逝去の事実・続柄・場所を抜き出す、という作業です。
ここで大事なのは、決められた言い方でなくても取り出せることです。「亡くなりました」「息を引き取りました」「先ほど…」と、表現はさまざまです。決まった言葉でしか反応しない仕組みだと、実際の電話ではほとんど動きません。
逆に、取り違えも起こります。「危篤です」を「ご逝去」と受け取ってしまえば、その後の応対が完全にずれます。似ているが決定的に違う状況を区別できるかどうかが、この工程の勘所です。
「何を言うか決める」工程は、どう組み立てるのか?
いま何が分かっていて、何が分かっていないかを踏まえて、次に伺うことを決めます。ここは自由に喋らせるのではなく、会話の段階を区切って組み立てるほうが安定します。
用件を把握する段階、お気持ちに寄り添う段階、必要な情報を伺う段階、確認する段階、お伝えして終える段階。段階ごとに「いま何をすべきか」を絞ると、話が飛んだり、同じことを二度聞いたりしにくくなります。
この段階分けは、応対の質を守るためでもあります。用件を伺う前にお悔やみを述べてしまうと、事前相談のお電話だった場合に相手を戸惑わせます。順番を決めておくことで、そうした取り違えを構造的に防げます。
「声にする」工程で、気を付けることは何か?
文字を音声に変えます。ここで問われるのは、聞き取りやすさと、場にふさわしい声かどうかです。明るく快活な声は、多くの業種では好まれますが、弔事の電話では合いません。
速さも大事です。ゆっくり話すほうが丁寧に聞こえますが、遅すぎると間が空き、相手が「聞こえていないのかな」と不安になります。読点での間の取り方、語尾の下げ方といった細部が、印象を左右します。
全体でどのくらいの速さが必要なのか?
目安として、相手が話し終えてから返事が始まるまでが1秒前後に収まっていないと、会話として不自然になります。人は無音が続くと「通じていない」と感じ、話し始めてしまうためです。
話し始めが重なると、そこから会話が崩れます。相手が話しているのに機械が喋り続ける、あるいは両方が黙る。どちらも、電話をかけている側にとっては不安な体験です。だから応答速度は、快適さの問題ではなく会話が成立するかどうかの条件です。
4工程それぞれを速くする工夫が要りますが、最初の挨拶のように内容が決まっている部分は、あらかじめ用意しておくことで待ち時間をなくせます。すべてをその場で考える必要はありません。
この仕組みは、どこが苦手なのか?
苦手なのは、想定していない話題です。会話の段階を区切って設計するということは、裏を返せば「その段階で想定していること」以外に弱いということでもあります。ご逝去の第一報を受けることに特化していれば、その形からずれた相談には対応しきれません。
また、判断が要る場面も苦手です。「この状況で今すぐ向かうべきか」といった判断は、地域の事情や自社の体制を踏まえたものになります。機械が代われる部分ではありません。
だからこそ、任せる範囲を決めておくことが重要になります。用件を伺って担当者へ渡すところまでを任せ、判断は人がする。この線引きを最初に決めておけば、期待と実際のずれは小さくなります。
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