この記事の要点
- 葬儀社が持つ情報は、扱いに配慮を要するものを含む。量ではなく質の問題として考える。
- 保存の可否ではなく「何のために、いつまで」を決める。目的のない保存は負債になる。
- 消すときは派生データまで消す。元だけ消しても、要約や引用が残っていれば残っている。
葬儀社が扱う情報は、一般的な顧客情報とは性質が違います。氏名や連絡先に加えて、ご家族の関係、宗教、経済状況、時には病歴に関わる話まで含まれます。ここでは、実務として何を決めておくべきかを整理します。制度の適用については専門家にご確認ください。
葬儀社が持つ情報は、何が特殊なのか?
量ではなく質です。ご遺族との会話には、ご家族の間柄、経済的なご事情、宗教に関することなど、ご本人が普段は口にされない内容が含まれます。それらが業務の必要から自然と集まってきます。
加えて、故人様に関する情報は、ご本人が同意を示すことができません。ご遺族が代わりに扱いを決めることになりますが、その範囲は自明ではありません。一般的な顧客管理と同じ感覚で扱わないほうがよい、というのが実務上の出発点です。
この性質は、漏えいしたときの影響にも表れます。連絡先が漏れることと、ご家族の事情が漏れることでは、ご遺族が受ける被害の質が異なります。
何を保存すべきで、何を保存しなくてよいのか?
業務に必要なものだけ、が原則です。施行の記録として必要な情報と、会話のなかでたまたま知った情報は分けて考えます。後者を業務記録に書き込む必要はありません。
たとえば、ご家族の間で意見が分かれていた、といった事情は、担当者が把握しておくべきことではあっても、記録として長く残す必要があるとは限りません。「知っておくこと」と「記録に残すこと」は別です。
この線引きは、担当者の判断に任せると人によってばらつきます。書式を決めておき、書く欄があるものだけを書く形にすると、自然と絞られます。
保存期間は、どう決めればよいのか?
目的から逆算します。施行に関する記録であれば、その後のご法要のご案内や、ご遺族からのお問い合わせに備える期間。会計の記録であれば、法令で定められた保存期間。目的ごとに違って構いません。
難しいのは、通話の音声や文字起こしのような、業務の副産物として生まれる情報です。これらは目的が曖昧なまま溜まりやすく、気付くと大量になっています。副産物ほど、期間を明示的に決める必要があります。
迷う場合は短めから始めてください。足りないと分かってから延ばすほうが、長すぎたと気付いてから消すよりずっと容易です。
誰が見られる状態にすべきか?
必要な人だけ、が原則ですが、少人数の会社では全員が見られる運用になりがちです。それ自体が直ちに問題というわけではありませんが、誰が見られるかを把握していない状態は避けるべきです。
とくに、退職した方のアカウントが残っている、共有の端末に記録が残っている、といった状態は見落とされがちです。人の出入りがあったときに確認する習慣をつけておくと、こうした穴は防げます。
削除を求められたら、どう対応するのか?
手順を先に決めておきます。窓口、ご本人確認の方法、対応の期限、完了のご連絡。求められてから考えると、時間もかかり、対応もばらつきます。
実務で最も難しいのは、どこに何があるかを把握することです。基幹の記録だけでなく、メールの送受信、共有フォルダ、通話の音声、外部サービスに預けたデータ。散らばっていると、消したつもりで残ります。
「元を消せば済む」と考えてよいのか?
いいえ。ここが最も見落とされる点です。通話の音声を消しても、そこから作られた文字起こし、要約、引継ぎメモ、ケースの記録が残っていれば、情報は残っています。
とくに要約や引用は、元のデータを消した時点で「消えた」と誤認されやすい形で残ります。派生したものがどこにあるかを、システムを導入する段階で確認しておく必要があります。
確認の方法は単純です。「この通話を消したら、何が消えて、何が残りますか」と聞く。答えられない場合は、実際に消して確かめるべきです。
外部サービスに預けている情報は、どう扱うのか?
預けている先と、預けている内容を一覧にしておくことです。電話、会計、顧客管理、メール、ファイル共有。それぞれに何が入っているかを把握していないと、削除にも移行にも対応できません。
あわせて、契約が終わったときにデータがどうなるかも確認しておきます。解約後に返却されるのか、一定期間後に消えるのか、こちらから消せるのか。解約時のことは、契約時にしか交渉できません。
どこの国で処理されているかは、気にすべきか?
気にすべきです。外部サービスを使う場合、処理や保存が国外で行われていることがあります。ご遺族への説明が必要になる場合もありますし、社内の方針として決めておくべき事項でもあります。
確認する言い方は「どこのリージョンで処理されますか」で足ります。選べる場合もありますので、選べるなら国内を選ぶという方針を持っておくと、判断が早くなります。
まず何から着手すればよいのか?
棚卸しです。いま何を、どこに、どれだけ持っているかを一覧にする。これがないと、期間も権限も削除手順も決められません。
完璧な一覧である必要はありません。主要なものから書き出すだけで、思っていたより多くの場所に情報が散っていることに気付くはずです。そこが出発点になります。
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