音声AIが会話するには、お客様の声を外部のAIサービスへ送る必要があります。多くの場合、その送り先は海外です。
そこで「事前に同意をいただこう」と考えるのは自然な発想です。私たちも最初はそうしました。ところが、実装してから気づきました。AIに同意確認をさせると、お客様の「はい」という返事も、その海外のAIに届いてしまいます。同意を取る前に、すでに送っている。この記事は、その矛盾にどう対処したかの記録です。
前提:なぜ海外に送ることになるのか
自然な日本語で会話できる音声AIは、現時点では海外の事業者が提供するものが中心です。応答の速さと日本語の自然さを両立させようとすると、選択肢は限られます。
私たちも、この現実を前提に設計しています。「越境が起きない」とは言えません。言えるのは、どの範囲のデータが、どの時点で送られるかを正確に把握し、その前に告知と同意を置くことだけです。
最初の設計(そして間違い)
当初の流れは、こうでした。
- 電話がつながる
- AIに接続する
- AIが「録音し、外部のAIで処理します」と告知する
- そのまま会話を続ける
告知はしています。文言も検討しました。しかし、2番と3番の順序が逆です。
3番でAIが話すためには、2番で接続していなければなりません。そして接続した時点から、お客様の音声はすべて送られます。「ご了承いただけますか」に対する「はい」も、「ちょっと待って」も、全部です。
つまりこの設計では、同意を取るための会話そのものが、同意なしに越境していることになります。告知した気になっているだけで、実態は伴っていません。
気づいたきっかけ
この問題は、個人情報の扱いを一通り点検する作業の中で見つかりました。当初は「告知しているから大丈夫」と整理していた項目です。
指摘は端的でした。「越境リスクは、この方式を使う以上、必ず発生する」。告知の有無ではなく、接続した瞬間に発生する。ならば、告知の位置を接続より前に動かすしかありません。
自分たちで「対応済み」と整理した項目ほど、後から見返すべきだという教訓になりました。
組み替えた設計
現在は、こうなっています。
- 電話がつながる
- 電話網の側で、日本国内の音声合成が告知を読み上げる
- 電話網の側で、お客様の返事を受け取る
- 同意が得られた場合にのみ、海外のAIへ接続する
- 同意が得られなければ、担当者から折り返す旨を伝えて終話する
要点は、2番と3番を海外のAIに触れさせないことです。告知の読み上げも、返事の聞き取りも、電話をつなぐ仕組みが持つ機能で完結させています。ここまでは、お客様の音声は海外へ出ません。
実際の告知文は、こうです。
「お電話くださり、感謝致します。○○ AI 受付でございます。お話の内容は応対品質向上のため、通話を録音し、米国 OpenAI 社の AI を介して処理いたします」
「ご了承いただける場合は『はい』と、お話しください。よろしくない場合は『人間担当者と話したい』と、お伝えくださいませ」
この文面には、業界の知見が3つ入っています
1.「ありがとうございます」を使っていない
冒頭が「お電話くださり、感謝致します」になっています。弔事の場で謝意を表す言い回しは適さないという、現役の葬儀ディレクターの方からの指摘を反映したものです。同意確認の文面も、弔事の作法の外にはありません。
2. 番号を押させていない
「ご了承いただける方は1を」とすれば、判定は確実になります。しかし現場からは、番号入力を求める応答はクレームに直結すると指摘されています。深夜に、動揺しているご家族に番号を押させることはできません。
そのため、お声で「はい」とお答えいただく方式にしました。判定は難しくなりますが、そこは技術で引き受けるべき負担だと考えています。
3. 断る方法を、具体的に案内している
「よろしくない場合は」で終わらせず、何と言えばよいかを伝えています。断り方が分からない同意は、同意ではありません。お断りになった場合は、担当者から折り返す流れにつながります。
ここは、ヒアリングでいただいた「担当者からの折り返し電話も安心感を高めるポイント」「人が介在する安心感」という言葉とも一致しています。AIを断ることが、行き止まりになってはいけません。
お返事がない場合
一定時間お返事がない場合も、海外のAIには接続しません。「改めて人間担当者よりお電話差し上げます」とお伝えして、通話を終えます。
沈黙を同意とみなさない、という判断です。深夜に電話をかけてこられた方が、言葉を出せないことは十分あり得ます。その沈黙を「はい」と解釈するのは、同意の取り方として適切ではありません。
「はっきりAIと告知すべき」という要望
この告知は、法令上の要請だけで入れているわけではありません。ヒアリングで、現役のディレクターの方から明確な要望をいただいています。
AIであることは、はっきり告知すべき
理由は、隠して対応し、後で気づかれたときに失う信頼のほうが大きいから、というものでした。告知は、規制対応であると同時に、信頼を守るための業務要件です。この2つが同じ方向を向いているのは、幸運な一致だったと思います。
音声AIを検討される方へ:3つの質問
音声AIを比較検討される際、次の3点は必ず確認されることをおすすめします。
- お客様の音声は、どの時点で外部に送られ始めますか。「告知しています」ではなく、告知と接続のどちらが先かを聞いてください
- 送り先はどこの国の、どの会社ですか。そしてそれをお客様にどう伝えていますか
- お客様がお断りになった場合、何が起きますか。断る手段が案内されているか、断った後に行き止まりにならないか
1番目は、私たち自身が一度間違えた箇所です。図に描いてもらうと、順序がはっきりします。
まとめ
- 音声AIに同意確認をさせると、同意を取るための会話自体が先に越境します
- 告知と返事の受け取りは、海外のAIに触れさせない経路で行う必要があります
- 同意が得られたときにだけ接続する。沈黙は同意とみなしません
- 告知文にも弔事の作法が要ります。「ありがとうございます」は使えず、番号入力も求められません
- 断り方を具体的に案内していない同意は、同意になっていません
ご相談ください
次のような状況でしたら、一度お話をお聞かせください。
- AIの導入を検討しているが、ご遺族の個人情報の扱いをどう説明すればよいか分からない。社内やご家族への説明材料が必要である
- すでに音声の自動応答を使っているが、録音や外部送信の告知をしているか把握していない。確認の仕方を知りたい
- AIに任せることへの抵抗が社内にある。断る手段があることを含め、丁寧な設計かどうかを見極めたい
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