AIが聞き取れなかったとき、どうなるのか ── 詰まったときの逃がし方

この記事の要点

  • 聞き返しは1回まで。それ以上繰り返すと、ご遺族は同じ質問を何度も受けることになる。
  • 詰まったときに何もせず切れるのが最悪。人につなぐか、記録を残して折り返す。
  • 「聞けなかった」という記録が残ることが、次の改善の材料になる。

AIが会話をする以上、理解できない場面は必ず出ます。設計として重要なのは、理解率を上げることよりも理解できなかったときにどうするかです。ここが決まっていないと、ご遺族を置き去りにします。

聞き取れないのは、どういうときか?

いくつか典型があります。ひとつは、音として拾えていない場合。電波が悪い、周囲がうるさい、声が小さいといった状況です。もうひとつは、音は拾えたが意味が取れない場合。方言、業界特有の言い回し、こちらの想定にない相談内容などです。

三つめとして、ご遺族が言葉に詰まって黙ってしまう場合があります。これは「聞き取れない」のとは違います。答えを急かしてよい場面ではありません。沈黙を失敗として扱うと、応対として冷たくなります。

この3つは対処が違います。音の問題なら聞き返す、意味の問題なら別の聞き方をする、沈黙なら待つ。ひとまとめに「分からなかった」として扱うと、どれにも適さない対応になります。

何回まで聞き返してよいのか?

実務上の目安は1回までです。2回目でも取れなければ、聞き方を変えるか、人に渡すべきです。同じ質問を繰り返されるのは、深夜の混乱した状況では大きな負担になります。

ここには実装上の落とし穴があります。「1回だけ聞き返す」と決めていても、回数を数えていなければ、条件が変わらない限り何度でも聞き返し続けます。設計の意図と実際の動きがずれる典型例です。回数は必ず数え、上限に達したら次の手に移す必要があります。

聞き返すときの言い方も大切です。「もう一度お願いします」だけだと、相手は何をどう言い直せばよいか分かりません。「恐れ入ります、お名前をもう一度お聞かせいただけますでしょうか」と、対象を絞るほうが通じます。

それでも駄目なとき、どこへ逃がすのか?

選択肢は2つです。その場で人につなぐか、用件をお伺いできなかったことを記録して折り返すか。どちらを取るかは、時間帯と体制によります。

逃がし先向いている場面注意点
その場で人につなぐ日中・担当者が在席誰も出られないと、また待たせる
記録して折り返す深夜・少人数折り返し先が取れているかが前提

最悪なのは、どちらもせずに終話することです。ご遺族から見れば「電話はつながったのに何も進まなかった」ことになり、印象としては出られなかったのより悪いこともあります。

人にお願いしたいと言われたら、どうするのか?

断らないことです。AIとの会話を望まない方は必ずいらっしゃいますし、その希望は尊重されるべきです。「人間の担当者と話したい」と言われた時点で、AIは引くのが原則です。

そのうえで大事なのは、そこで終わらせないことです。断られたお電話こそ、記録を残して担当者に届ける必要があります。用件は伺えていなくても、「この番号から、この時刻に、人への取り次ぎを希望するお電話があった」という事実は残ります。それだけあれば折り返せます。

深夜であれば、担当者を起こすかどうかの判断も要ります。用件が分からない以上、軽い相談かもしれません。それでも、ご逝去の第一報である可能性を優先して起こす、という判断はあり得ます。取りこぼしたときの重さが違うためです。

お返事がないまま終わったときは、どう扱うのか?

これも記録に残す対象です。呼びかけに応答がないまま切れた場合、間違い電話かもしれませんし、話そうとして言葉が出なかったのかもしれません。区別はつきません。

つかないからこそ、「応答がないまま終了した」という事実を残して、折り返しの判断は人がするのが安全です。機械が「これは間違い電話だろう」と判断して捨てると、その判断が間違っていたときに誰も気付けません。

「聞けなかった」記録は、何の役に立つのか?

改善の材料になります。どの質問で詰まることが多いのか、どの時間帯に多いのかが分かれば、聞き方を変える判断ができます。記録がなければ、うまくいっているのかどうかすら分かりません。

導入して終わりにせず、月に一度でも「聞けなかった件」を見返す時間を取ってください。数件を読むだけで、次に直すべき場所が見えてきます。

詰まったことを、どう数えればよいのか?

件数だけを見ても改善にはつながりません。どの段階で詰まったかを分けて数えるのが要点です。名前を伺うところなのか、場所を伺うところなのか、そもそも用件の把握段階なのか。

段階が分かれば、打ち手も具体的になります。名前で詰まるなら復唱の仕方を変える。場所で詰まるなら選択肢で伺う形にする。用件の把握で詰まるなら、最初の問いかけそのものを見直す。

数え方は、通話1本ごとに「どこまで進んだか」を記録する形が扱いやすいでしょう。全部聞けた通話と、途中で終わった通話の比率が出れば、月ごとの推移も追えます。

そして、詰まった通話をゼロにすることを目標にしないでください。ご遺族が言葉に詰まるのは自然なことで、それを機械の失敗として数えると、急かす方向に設計が歪みます。数えるのは「必要な情報を伺えないまま終わった通話」であって、沈黙そのものではありません。

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